『セトウツミ』は、漫画家・此元和津也(このもと かずや)先生による、日常の中に潜む「哲学と笑い」を、キレッキレの会話だけで描き切った、唯一無二の青春会話劇です。
放課後の川辺の階段で、ただ「喋るだけ」。大事件も、壮大な成長物語も、派手なアクションもありません。
「この川で暇をつぶすだけのそんな青春があってもええんちゃうか」というキャッチコピーの通り、何気ない放課後の風景の中に、若さの孤独と世界の縮図を垣間見せる傑作として、幅広い層から支持されています。
あらすじ:大阪の河原で交わされる二人の高校生のトーク
物語の舞台は、大阪のとある河原の階段。登場するのは、性格もルックスも対照的な二人の男子高校生、瀬戸小吉(せと しょうきち)と内海想(うつみ そう)です。
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瀬戸(セト): 元サッカー部で、お調子者。どこか突拍子もないことを言うボケ役が多い。
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内海(ウツミ): 塾通いでクールなインテリメガネ。常に冷静沈着でシニカルなツッコミ役を担う。
部活もせず、友達も多くない二人は、「暇つぶし」という共通の目的のもと、放課後の数時間を川辺でダラダラと過ごします。
恋愛、進路、友人、家族、果ては宇宙人に至るまで──彼らの話題はどこにでもあるようで、妙に深い人生観や社会風刺を伴います。笑えるのに、時折ハッとさせられる。そんな何気ない会話の裏に、若さ特有の孤独と繊細な感情が静かに流れているのです。
『セトウツミ』が傑作たる所以:会話のテンポと哲学
本作は、「何も起きない」という制約があるからこそ、その会話劇としての完成度が際立っています。読者がページをめくる手が止まらない、その核心的な魅力を解説します。
上方漫才さながらの「緩急自在なテンポと間」
セトとウツミの会話は、まさに上方漫才を彷彿とさせます。
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キレッキレのボケとツッコミ: 瀬戸が繰り出す突拍子もないボケに対し、内海がシニカルで的確なツッコミで切り返す流れは、読者を腹の底から笑わせます。
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「間(ま)」の妙: 漫画という静止画の世界でありながら、この作品は「間(沈黙)」の使い方が群を抜いて秀逸です。あえて間を置いてからツッコミを入れたり、表情だけで沈黙の意味を語らせたりする手法は、あたかも演劇やコントを見ているような臨場感を生み出しています。
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関西弁のリアリティ: 会話がすべて関西弁で展開されることで、そのテンポの良さとユーモアが最大限に引き出され、読者との距離感を一気に縮めてくれます。
「静かな青春」のリアルが描く距離感
本作には、青春漫画の定番である激しいケンカやドラマチックな恋愛はありません。しかし、二人の会話劇を通じて、読者は「確かにそこに青春がある」と感じさせられます。
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孤独の共鳴: 正反対に見える二人が、「暇つぶし」という共通の孤独を抱えているからこそ、この関係性は成立しています。二人の間に存在する「言葉にできない心地よい距離感」は、思春期特有の疎外感や繊細な感情を静かに描き出しています。
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時間の流れ: 服装の変化や背景の季節感だけで、「時間が確実に過ぎている」ことを暗示し、永遠ではない青春の哀切さをそっと示唆している点も、本作の構成美を支えています。
軽口の中に潜む「人生観と哲学」
ただの雑談として始まる会話の裏には、作者の鋭い洞察が潜んでいます。
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社会風刺とシニシズム: 恋愛、進路、親子の関係、SNS(連載当時)など、現代社会や若者の問題を、シニカルかつユーモラスな視点で切り込みます。
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人との関わり方: 軽口の中に見え隠れする人生観や友情の定義は、読者に「自分はどう生きるべきか」「人との関わり方はどうあるべきか」を深く考えさせます。特に、終盤で見せる二人の関係性の変化は、大人になってから読み返すと、より深く胸に刺さる「人間の強さと弱さ」の描写として秀逸です。
感想・レビュー:心に余韻を残す「大人のための青春ドラマ」
『セトウツミ』は、肩の力を抜いて読めるのに、読後にはなぜか心が温かくなり、深い余韻が残る作品です。
静かなトーンで描かれる「喋るだけ」の放課後は、自身の学生時代を思い出し、どこか懐かしく感じられます。会話劇としての完成度は群を抜いており、笑いと余韻のバランスが絶妙です。まるで二人芝居の舞台を観ているような構成美があり、読み進めるほどに、会話の裏側に隠された二人の繊細な関係性の変化に気づかされるでしょう。
大事件を起こすことや、大それた目標を持つことだけが青春ではありません。「何気ない日常の中にこそ、真のドラマと哲学が潜んでいる」ということを証明した、「大人のための青春会話劇」として、ぜひ多くの読者に触れていただきたい一作です。
まとめ:『セトウツミ』は「暇つぶし」を極めた会話劇の傑作
『セトウツミ』は、青春の中に潜む「静かなドラマ」を描いた会話劇の金字塔です。
大事件も成長物語もない──それでも人間を深く、面白く描けるという「会話」の力を証明した作品です。
笑えて、しんみりして、どこか切ない。そんな空気感がたまらない、何度でも読み返したくなる一作です。日常の喧騒から離れ、「暇をつぶす」贅沢な時間を楽しみたいすべての人に強くおすすめします。
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